
- 厚底スパイクはプレートとフォーム材の両方で反発がもらえる
- クッション性が高いため、身体への負荷が軽減される
- 正しい走り方をすれば薄底スパイクより高い反発力が得られる
- 慣れるまでに少し時間がかかる
- 厚底スパイクを履くと正しい走り方の習得にも役に立つ
近年、陸上スパイクの厚底化が進んでいます。これまでは短距離のスパイクと言えば薄底で、硬いプレートで反発を貰う形状が常識でしたが、今は薄底か厚底かという選択肢が生まれました。
長距離やマラソンにおいて厚底シューズが注目され始め、今や長距離界では厚底シューズの独壇場になっています。厚底シューズが持つフォーム材の高反発性とクッション性が短距離スパイクにも採用され、短距離界も厚底スパイクの勢いが増しています。

国内メーカーでは、2023年以降にミズノとアシックスから厚底スパイクが発売されています。
この記事では、実際に厚底スパイクを履いた経験をもとに、厚底スパイクの特徴、メリット、デメリット、走り方について解説しています。この記事を読むことで、厚底スパイクをおすすめできる人はどんな人か、厚底スパイクで速く走るためにはどんな走り方をしたら良いのかが分かるようになります。


厚底スパイク=プレートとフォーム材の両方で反発を貰うスパイク


厚底スパイクは、高反発なプレートと高反発なフォーム材を掛け合わせた、反発性とクッション性を兼ね備えたスパイクです。短距離では、長らく薄底のスパイクが定番でした。走り幅跳びのスパイクのソールは昔から厚いものでしたが、高反発フォーム材ではなく、単純なクッション素材でした。
以下で厚底スパイクの特徴を紹介していきます。
フォーム材は従来のクッション材とは異なる


厚底スパイクの「厚底」とはミッドソールの厚みのことを言います。見た目や触った感じは、従来のランニングシューズのクッション材との違いは分かりにくいですが、簡単に言うと従来のクッション材を改良して軽さや反発性を向上させたものです。
アシックスの短距離スパイクに用いられるフォーム材
アシックスの厚底短距離スパイクには「FF Blast」というフォーム材が使用されています。「FF Blast」には3種類あり、それぞれ以下のような特徴があります。


ミズノの短距離スパイクに用いられるフォーム材
ミズノの厚底短距離スパイクはエックスブラストNEO2、クロノインクスNEO JAPANがあり、どちらも「ミズノエナジーライト」というフォーム材が使用されています。


ランニングシューズにも使われているミズノエナジーのクッション性と反発性を高め、さらに軽いという特徴を持っています。
プレートは従来どおりの反発力を持つ


アシックスの厚底スパイクのプレートはフォーム材の上に乗るような形で配置されています。従来の薄底スパイクは靴底にプレートが配置されていましたが、接地時にプレートをしならせて反発を貰うという基本的な機能は変わりません。
実際に履いている厚底スパイクを紹介


私が履いているスパイクはアシックスのコスモレーサーMD3です。
コスモレーサーMD3はメーカーのスペック上では800m~1500mが対応種目です。しかし、アシックスのソニックスプリントエリート3やジェットスプリント3と比較して履いた感覚が一番しっくり来たので短距離用に購入しました。
ソニックスプリントエリート3やジェットスプリント3と比較してコスモレーサーMD3を選択した理由は以下のとおりです。
- フォーム材が柔らかめでクッション性が高い
- つま先の傾斜が高すぎず低すぎず、とても履きやすかった
- フォアフット接地とフラット接地の両極端では選びにくかった
- 両者と比較して安かった
実際に走っていてもしっかり反発が返ってきますし、とても中距離用とは思えないくらい短距離にも適応したスパイクだと思います。



走っていて物足りなさというものは全く感じません。
厚底スパイク4つのメリット


まずは厚底スパイクのメリットを4つ挙げます。
①これまでにない反発力が得られる
厚底スパイクは、薄底スパイクにはない反発力が得られます。
薄底スパイクと同様にプレートの反発力が貰えることに加えて、接地の際に潰したフォーム材が元の形に戻る力も反発力として生かして推進力につなげることが可能になっているからです。
以下は薄底スパイクと厚底スパイクの違いのイメージです。
- 薄底スパイク=ピンポン玉
- ピンポン玉は表面の硬い素材が地面を弾いて反発します。
- 厚底スパイク=スーパーボール
- スーパーボールは表面の素材が地面を弾く力に加えて、ボール自体が衝撃で潰れて元に戻る反発力も生じます。



プレートとフォーム材の反発力の両方を受けることができます!
②クッション性が高く怪我しにくい


厚底スパイクはクッション性が高いため怪我をしにくいです。
厚底スパイクに用いられるフォーム材は高反発素材ですが、同時にクッション性能も高いからです。
クッションが薄いほど脚や身体にかかる負担は大きくなります。薄底スパイクはほとんどクッション材が入っていませんが、しっかりフォーム材が入っている厚底スパイクは、よりクッション性が高く怪我をしにくいことが分かります。
怪我は瞬間的なものと思われがちですが、実は日常的な負荷や負担が積み重なって起こることが多いです。日常的に脚や身体にかかる負荷や負担を抑えることで怪我のリスクを下げることができます。
③力まずにスピードに乗れて体力を温存できる
厚底スパイクはリラックスしてスピードを維持しやすいという特徴があります。
なぜなら、うまく反発を貰えると力まずに弾むように前に進むことができるため、無理なくスピードを出すことができるからです。
特に200mの前半や400mの前半300mなどはリラックスしつつも高いスピードを維持することが重要になってくるので、厚底スパイクと相性が良いです。



ロングスプリントでは脚力を温存できるのでラストの減速が抑えられます。
④正しい走り方が習得できる
厚底スパイクを履くことは正しい走り方の習得につながります。
その理由は、厚底スパイクで速く走るためにはしっかりとフォーム材を潰して反発を貰う必要があるからです。そのためには重心の真上から正確に地面を捉えるの技術が必要です。
厚底スパイクはフォーム材に厚みがあるため、まっすぐ真上から接地できないと足が左右にブレて力が逃げてしまうので、うまく接地できていないのが自分ですぐに分かります。
厚底スパイクでうまく反発を貰う走りを意識することは、結果的に正しい走りの訓練にもなります。
厚底スパイク4つのデメリット


続いて、厚底スパイクのデメリットを4つ挙げます。
①ダイレクトな接地感は薄底スパイクに劣る


地面を直接的に捉える接地感は、薄底スパイクの方が圧倒的に高いです。
薄底スパイクは足裏から地面までの距離が数ミリ~1cm弱ですが、厚底スパイクは2cm以上あります。
厚底スパイクは地面を素足で捉えるダイレクトな接地感は薄底スパイクに劣りますが、構造上の問題なので個人的にはフォーム材の反発力とトレードオフの関係だと思います。
②慣れるまでに時間を要する
これまで薄底スパイクしか履いたことのない人は、厚底スパイクの感覚に慣れるまで、ある程度時間を要します。
薄底のスパイクは特に意識をしなくても反発が返ってきますが、厚底スパイクの反発を最大限に発揮するためには、意識的な接地を心がけて走る必要があるからです。
走りの基本的な技術がある人はコツと感覚を掴めばそこまで時間はかからないかと思いますが、中には結局薄底スパイクに戻すという人もいます。



うまく接地できるとその分前に進むので、自分は慣らす練習が楽しかったです。
③真上から接地できないと左右へのブレが生じる


厚底スパイクは薄底スパイクと比較して安定性が低いです。
自分の足の裏と地面との距離が遠ければ遠いほどグラつきは強くなり、左右へ揺れやすくなるためです。
真上から接地できていないと、左右の方向へ力が逃げ、結果的に一番力を伝えなければいけない真下方向の力が弱まってしまいます。
逆に、上手に真下に接地できれば薄底スパイク以上の反発を得ることができます。



左右にブレない練習=上手な接地という指標になるため、実は良いトレーニングになるとも言えます。
④カラー展開が少ない
厚底スパイクは、まだ発売されてから日が浅いためカラー展開が少なく、選択肢が限られます。
今後は少しずつ新色が追加されていくと思いますので楽しみにしておきましょう。
厚底スパイクでの走り方を解説


厚底スパイクの性能を十分に発揮するためには大きく分けて3つ意識しておくべきことがあります。
とにかくフォーム材を潰すことを意識する
厚底スパイクで速く走るためにはとにかくフォーム材を潰すことを意識して下さい。
厚底スパイクのフォーム材は高反発素材なので、フォーム材を素早く潰せば潰すほど高い反発力を得ることができます。言い方を変えれば、フォーム材をしっかり潰すことが出来ないと高い反発力を貰うことはできません。
フォーム材を潰すためには単に地面に足を押し付ける力を大きくするだけではなく、接地する時の地面と脚との角度や、足関節の向きやねじれ、離地のタイミング、重心の移動など様々なことを意識する必要があります。
これらは単に厚底スパイクを履きこなすための技術ではなく、どんな靴であっても速く走るために必要な基本的な技術なので普段の練習で意識することで自然と正しい走り方が身に付きます。



潰し方にもよりますが、フォーム材を潰した分反発が返ってきます!
一歩一歩反発を感じながら前へ弾むように走る
慣れるまでは焦らずに一歩一歩しっかりと反発を感じながら走りましょう。
薄底のスパイクと比較すると反発が返ってくるタイミングや反発の仕方も違うので、ピッチを意識しすぎると十分に反発を得られるタイミングが掴みづらいため最初のうちは気持ちゆったりした動きで身体に慣らしていくと良いです。
厚底スパイクは正しく走ると高い反発を得ることができますが、上方向へ跳ねないように注意が必要です。身体の重心を意識して上下動のない走りができるように意識しましょう。
スパイクのピンは意識しない


厚底スパイクも薄底スパイクも一緒ですが、ピンは意識しなくて良いです。
スパイクのピントラックを引っ搔いて走るという走りは根本的に理にかなっていないからです。
アシックスの厚底スパイクのピンは5mmです。このピンは、フォーム材を潰して反発を貰うために接地時のブレを防ぐ滑り止めの役割と思って大丈夫です。



昔は5mmピンは長距離用という位置づけでしたが、実際に短距離で使っても全く違和感はなく、むしろ接地の感覚が分かりやすく走りやすかったです。
厚底スパイクをおすすめできる人


厚底スパイクをおすすめできる人は以下のような人です。
怪我のリスクを減らしたい人
厚底スパイクは薄底スパイクよりも怪我のリスクが低いと言えます。
理由は、厚底スパイクのフォーム材は高いクッション性を持つので、脚や身体の衝撃やダメージを軽減してくれるからです。
特に300+200+100のセット走やインターバル走などの走っている時間が長い練習メニューの時は一歩一歩の衝撃が軽減される分、厚底スパイクの方が身体への負荷を抑えられます。



シンスプリントに悩む選手や、怪我の再発を抑えたい選手はこれを機に厚底スパイクを選択するのも良い選択と言えます。
真上から接地できる技術を持っている人


ある程度地面に対して真上から接地できる技術を既に持っている人は厚底スパイクはおすすめできます。
厚底スパイクは地面に対して真上から正しく接地できればその分フォーム材の反発を生かして高い反発力が得られるからです。
逆に、「真上から接地する」ことがどういうことかを言葉で説明できないうちは、意識的に厚底スパイクを履きこなすことは難しいかもしれません。
200mや400mでラストまで力を温存したい人
200mや400mのラストで力が残っておらず減速する人には厚底スパイクはおすすめできます。
厚底スパイク高いクッション性により身体への衝撃やダメージを抑え、スピードを維持したまま中間疾走することができるため、うまく履きこなせば薄底よりもラストの減速を抑えることができるからです。
短距離で全力疾走をした時に片足にかかる負荷は体重の4倍~5倍と言われています。一歩一歩が身体にダメージを与えていくため、うまく履きこなせば薄底スパイクと同じペースでもラストで粘れる力を残すことができます。
地面からしっかり反発を貰う走りを習得したい人


走りの基本を身に付けたい人にも厚底スパイクはおすすめです。
厚底スパイクの性能を発揮するためには正しい走りの技術が必要なので、言い換えれば厚底スパイクを履きこなすための意識を普段から行うことは、地面からしっかりと反発を貰う訓練にもなるからです。
地面に対して真上から接地してうまく反発が貰えると、体感として高い推進力が得られるので正しい走りができているかどうかの確認作業にもなります。
とにかく厚底のスパイクを履いてみたい人
「良く分からないけど、流行りだからとりあえず履いてみたい。」という理由でも全然OKです。
このスパイクを履かなければいけない、このスパイクを履いてはいけないというものはありません。(もちろんルールの範囲内で)
厚底スパイクを履いてみることで新たな気付きが得られる可能性もあります。



最終的には自分が履きたいスパイクを履きましょう!
厚底スパイクをおすすめできない人


履きたいスパイクを履くのが良いと個人的には思いますが、そうは言っても厚底スパイクをあえておすすめできない人は以下のような人です。
初めて陸上スパイクを購入する初心者
初心者の人は厚底スパイクではなくエントリーモデルを購入した方が無難です。
スパイクを始めて履くような初心者の方は、厚底スパイクの性能を十分に発揮することが難しいからです。初心者の方はスパイクに慣れて走りの技術を磨くことが速くなる近道です。
大事な試合の直前に薄底スパイクから乗り換える人


大事な試合の直前に薄底スパイクから乗り換えるのはリスクを伴います。
厚底スパイクは、ある程度走りの技術が身に付いている人であっても慣れるまでにある程度時間がかかります。
薄底スパイクと厚底スパイクは、履いている感覚に違いがあるので慣れていないうちは違和感が気になってパフォーマンスが落ちる可能性があります。



大事な試合は履きなれたスパイクでレースに集中した方が良いでしょう。
地面とのダイレクトな接地感を大事にする人
素足のように地面を捉える感覚を大事にしている人には厚底スパイクはあまり向きません。
人によっては、厚底スパイクは浮いた感じ(地面から素足までの距離が遠く感じる)がある人もいるからです。
接地のダイレクトな衝撃を感じながら地面を捉えて走りたい人にとっては、うまく地面に力を伝えられている感じがしないので違和感を覚える可能性があります。
接地の衝撃を感じて地面に力を加えていきたい選手にとっては、薄底のスパイクの方が合っていると感じることもあるでしょう。
おすすめの厚底スパイクを紹介


厚底スパイクも種類が増えてきましたが、その中でもおすすめのものを紹介します。
履きやすさで言うと圧倒的にアシックスかミズノがおすすめ
厚底スパイクの中でも履きやすく、反発が得られやすいスパイクを選ぶならアシックスかミズノがおすすめです。
ソニックスプリント エリート3 ![]() ![]() 詳細レビュー | ||
ジェットスプリント3![]() ![]() 詳細レビュー | ||
コスモレーサーMD3![]() ![]() 詳細レビュー | ||
メタスピードSP![]() ![]() | ||
メタスピードMD![]() ![]() | ||
クロノインクスNEO JAPAN![]() ![]() | 入荷待ち | |
エックスブラストNEO2![]() ![]() 詳細レビュー | ||
この中で、コスモレーサーMD3とメタスピードMDは800m~1500mをターゲットとしているスパイクですが、フォーム材の反発、プレートの反発ともに高く短距離で使っても全く問題ありません。
むしろ、初めて厚底スパイクを履く場合、クセが無くて履きやすくおすすめできます。
厚底の感覚に慣れていれば海外製のものも候補
海外製の厚底スパイクではアディダスやナイキのものが有名です。
ただし、アシックスやミズノの厚底スパイクと比較してつま先の傾斜が高く、フォアフットでしっかり体重を支えるための筋力と技術が必要なのでやや上級者向けです。
この中でアディゼロAmbitionとナイキエアズームビクトリーは中長距離用をターゲットとしていますが、短距離でも全く問題ない反発力が得られます。



最後までご覧いただきありがとうございました。